夜空のララバイ
S×N
Happy happy birthday for kazunari
「迎えに行くよ、そこで待ってて?」
戸惑う翔ちゃんの返事もそこそこに、
俺はスマホを緩いスエットのポケットへと滑り込ませ、玄関へと急いだ。
「二宮さん、コンビニとか寄りますか?」
「うーん、いいや…」
運転席からかけられた声に気のない返事を
する俺は、手のひらに収まったスマートフォン
の画面を軽やかに指先で撫でる。
そこに映るのはカラフルでも素早く動くでもない吹き出しの羅列。
そのひとつひとつがくすぐったくて、俺の口もとは時折知らず知らずに引き上がる。
「雨、降りそうですね」
マネージャーの声が頭の上を通り過ぎて行くけど、
「ああ…そうなの?」
ごめん…聞いちゃいないよ?
だって、俺は手の中の翔ちゃんとの
おしゃべりで忙しいんだから。
今どこ?
首都高
降りたよ
やべえ
和が先か
翔ちゃんは
何処?
外苑通りを
東に移動中
外苑?
何で?
いろいろ
寄り道
あと一カ所
俺はLINEの画面に目を細める。
翔ちゃんの最後の寄り道先。
それはたぶん、俺たちのマンションが建つ
丘のふもと。
クラシカルなガラス窓に木の扉、
オレンジのペンダントランプが下がる
あの店だ。
気をつけてね
おう
膝の上にスマホを伏せれば、
車はちょうど、マンションの駐車場へと
スロープを下り始めた。
「ありがとうございました」
宝石のようにつやつやと美しい菓子が並ぶショーウインドウに見送られ、こげ茶色の扉を押した。
店を出た所で、ポツリ…一粒の雨がほほを打つ。
「あー」
俺はビルの谷間から暗く細長い空を見上げる。
タクシー待たせときゃよかったか…
垂れ込めた空を渋い顔で見上げた俺だけど、手にしたクリーム色の小箱に目をやれば自然と笑みがこぼれる。
町の小さなパティスリー。
甘いものがそれほど得意じゃない かず が
ここのケーキだけは好きだと言う。
目の前にはふたりの家へと続くなだらかな坂道。かき集めた きみ のお気に入りを携えて、
きみ を想いながら登るつもりだったアスファルトが雨を吸ってどんどん色濃くなってゆく。
「どうすっかな」
ため息混じりに呟くけれど、憂鬱な気分なわけじゃない。
オレンジの光が漏れるガラス窓の脇で、もう一度空を仰いだ。
ふたりでお祝いしよう。
そう言って翔ちゃんが選んだ今日という日。
翔ちゃんは仕事帰りにその準備に走り回っている。
たぶん…
俺が旨いと言った並木道沿いのグリルのハンバーグ。
ふたりで気に入っているあのワイナリーの赤。
そして俺の唯一好きなケーキ。
「ふふ…しょおちゃんは両手いっぱいだ」
そんな姿を想像すると、なんだかムズムズして落ち着かない。
俺はテーブルに置いたスマホを幾度も手に取るけど、なかなか連絡はない。
外を見れば、暗いガラス窓に無数の流れ星のような雨。
ほんとに降りだした…
俺はとうとう待ちきれずにスマホを耳に当てた。
「かず?どした?」
ポケットから取り出した画面には、今さっき俺を笑顔にしたばかりの きみの名が浮かんでいた。
「今どこ?」
リラックスした口調に、もう我が家で一息ついている かず が目に浮かぶ。
おおかた、お気に入りのクッションを胸に抱え、ソファーのいつもの場所にこじんまりと座っているのだろう。
「ああ、坂の下の…」
言いかければ、
「やっぱり」
含み笑いする柔らかなほほが見えるようで、かわいくて、
「なんだよ、やっぱりって」
つい構いたくなって、そのほほをふにゃりと指で挟むように言葉を絡めれば、
「ふふ…」
身を捩るように笑って、
「じゃあさ、まもだね」
明るい声が返ってきた。
その言葉は俺の頭の中で正しく翻訳される。
まってるよ。はやく帰ってきてね。
ああ、愛しいこと。
そう、俺は間もなくきみの元へ。
きみに会える喜びが、泉のようにわき上がる。
だけど…
俺を阻む雨よ。
「それがさ…」
再び見上げる長方形の空。
雨は止まない。
八分音符を並べるように、規則正しく降り続けている。
傘を二本手にとって、すぐに一本を戻す。
ほんの短い距離だ。
そんな言い訳をして、俺は翔ちゃんを自分の傘に入れて帰ってこようと決めた。
夜空に向かって透明なそれを開けば、すぐに水玉がその上で跳び跳ねる。
俺は左右のサンダルを交互に傘の先へ先へと送り出す。
その度に足先に雨は当たり、やがて足の裏は水たまりになる。
雨が傘を叩くバタバタという音。
踏みつけるサンダルのギュウギュウ鳴る音。
翔ちゃんの待つ丘の下へ、その音は徐々に加速していった。
緩いカーブを抜ければもうそこに、オレンジの光に包まれた翔ちゃんのシルエットが見える。
俺を見つければすぐにかかとを浮かすから、俺はとうとう走り出す。
待ってて?翔ちゃん。迎えに行くから。
「おかえり」
大きなビニール傘をこちらにさしかけて、にっこり笑うかずは、ガラス越しの明かりにうっすらと照らされて柔和だ。
濡れた前髪を指で払おうと引き寄せれば、足元がキュッと鳴って、
視線を落とせば大きめの紺のティーシャツも、だっぽりとしたグレーのスエットもまだらに濃淡の模様ができている。
「こんな濡れて…」
眉を下げる俺に、かずは照れ臭そうに笑った。
「いろいろ買い物?」
パンパンのリュックと、そこから頭を覗かせるワインボトル。
「そう、恋人の誕生日なもので」
クリーム色の小箱と透明な傘を取り替えっこして、翔ちゃんの肩に後ろからピタリと肩を寄せる。
「ケーキも?」
「そう、恋人が一番好きなやつをね」
俺は、ふふっと鼻先で笑い、
「タクシー待たせとけばよかったじゃない」
恋人の横顔を見上げた。
「そうね…」
前を見たままの翔ちゃんが呟くように言うけど、
一歩…二歩…
続きは聞こえてこない。
時折坂を下ってくる車のライトが、雨に滲んで広がっては過ぎる。
それに照らされて浮かぶ街路樹の下の紫陽花。美しいブルーは強い雨を浴びて、喜びはしゃいでいるみたいだ。
俺は、傘を持つ翔ちゃんの腕にそっと指を添える。
随分と俺に傾いた傘を翔ちゃんの方へ押し戻すと、翔ちゃんは俺を見下ろして笑った。
「タクシー降りて、正解」
ふふん。と笑う翔ちゃんに、俺も傘一本にして正解。と、言葉を続ける。
雨は先ほどよりも激しく、俺たちを包むように
降っていた。
「冷えるから早く脱げよ?」
リビングの大きな窓越しに、ふたり登ってきた坂を見下ろしていたら、背中から翔ちゃんの声が聞こえた。
リュックの中からあれやこれやと引っ張り出すのに忙しい翔ちゃ
。
振り返れば、淡いピンクのシャツが半分色を濃く変えている。
むしろ濡れているのは貴方の方なのに。
俺のために変わったその色に胸の奥がジワリとする。
すると、パタリと手を止めてこちらを振り向き俺を眺める翔ちゃん。
それでも動こうとしない俺に、真ん丸の目で口をへの字に結ぶと、しかたなさそうに近づいて来た。
「…ほら」
無造作にティーシャツの裾を握る翔ちゃんの手。
「…うん」
あたりまえに上がる俺の両腕。
一瞬の暗闇を抜けたら、目のまえは翔ちゃんの鳶色の瞳でいっぱいだった。
その饒舌な瞳が好きだな。いつも俺を好きだっていってるその瞳。
目を細めて見つめれば、同じように細められる瞳。
そして耳に流れ込む掠れた低い声。
「誕生日おめでとう」
翔ちゃんのほほが俺のほほを撫で、
腕が無防備に晒した胸を引き寄せる。
突然縮んだ距離に、
トクトク…トクトク…
鳴りだす俺の小さな胸。その鼓動は急速に早まって、翔ちゃんにふんわり抱かれた身体は触れ合った部分から幸せに満ちていく。
戸惑う唇をやっと開いて、ありがとうって言おうとしたのに、
それを待たずに翔ちゃんはその言葉を俺の唇ごと飲み込んでしまった。
「…ふ…ぅ…ん…」
漏れる吐息さえも封じられて、口内を翔ちゃんの甘い唾液が満たしてゆく。
硬い舌先で舌の中心をなぞられれば目の奥がスパークした。
懸命に翔ちゃんの首に腕を絡め、むさぼるように深く唇を合わせ、翔ちゃんの舌を追いかける。
もっと…もっと…
それなのに…
不意に膝は崩れて、すがり切れずに唇は剥がれていった。
「あ…いゃ…ぁ…しょおちゃ…」
少しも離れたくないのに。俺は翔ちゃんの肩に強く指を食い込ませた。
「…だいじょぶか?」
翔ちゃん、今はその優しさは要らないよ?
翔ちゃんだって息が乱れている。
乱暴でもいい、力ずくで俺を引き戻してほしい。
崩れる俺をその逞しい腕で、欲しいままに抱きしめてほしい。
そんな俺の望み通り、翔ちゃんは俺をいとも簡単にすくい上げる。
けれどとても優しく。そして丁寧に抱きかかえると、ゆっくりと膝を折った。
「しょ…ちゃ…」
あまりにそっと降ろすから、フローリングさえ真綿のようで、
それでも翔ちゃんの胸がいい俺は、腕を伸ばし翔ちゃんを求める。
翔ちゃんはそんな俺を宥めるように、大きな手のひらで髪もほほも首筋も軽やかに撫でた。
「かず…いい子…」
それからきつく抱きしめて、長い長いキスをくれた。
ああ、俺は本当に簡単だね翔ちゃん。
今となってはもう淫らな俺は、自分が望むままにに翔ちゃんに向かって脚を開く。
翔ちゃんがいとも簡単に下げたボクサーの下から現れた俺自身の昂りに視線を絡め、それを翔ちゃんへと投げる。
みて?俺はこんなにも貴方が欲しい。
刹那、翔ちゃんの顔が歪む。
「くっそ…」
濡れてごわつくデニムに手こずる翔ちゃんの手をやんわりと払い、俺は翔ちゃんの瞳を見つめながら翔ちゃんの腰骨の窪みをなぞる。
なぞれば中指はすぐに翔ちゃんの熱を探り当て、覗けば逞しい雄が顔を覗かせている。
欲しいでしょ?俺の指が…
顔を上げれば、鳶色だった翔ちゃんの瞳は鈍い光を湛えていた。
好き。本能で俺を欲しがるあなたが堪らなく好きだ。
さあ脱いで?
俺は翔ちゃんのデニムを引き下げた。
「…んっ…」
翔ちゃんの喉の奥が切なそうに鳴る。
嬉しいよ、翔ちゃん。
今翔ちゃんは俺でいっぱいいっぱいなんだもの。
かわいいよ、翔ちゃん。もっと俺だけ感じてよ。
口いっぱいに翔ちゃんをほおばって、アイスキャンディでも溶かすように舌をぜん動させる。
翔ちゃんの繊細な五本の指が俺を包み、やがては柔らかな膨らみを越えてその先まで届こうとしている。
俺の意識は次第に溶けていった。
俺の口の中で張りつめていく翔ちゃんと、腹の奥から突き上げてくる熱とに追い詰められて、
あ
…もうっ…
ゴボッ…
背を丸めた俺の口から翔ちゃんが飛び出てく。
あっという間に身体を床に押し付けられ、圧倒的な目力で見下ろされる。
「…も、やだ…しょおちゃ…はやく…」
もう乞うことしかできない俺は、翔ちゃんの乱れたシャツを夢中で握った。
やがて俺の体内で翔ちゃんが刻むリズムと
耳元のガラスに打ち付ける雨音がシンクロしだす。
「…っふ…しょお…はっ…ぁ…もっと…」
俺は、ただただ翔ちゃんを貪欲に欲しがって腰を振る。
まるで深海に閉じ込められたように、音も光も、翔ちゃん以外何も感じない。
こんなにしあわせな雨の日ってない。
雨粒を無数にまとったガラスの中で、翔ちゃんにすっぽりと抱き包まれて揺れる俺は、今にも溶け落ちてしまいそう。
ほら、翔ちゃん、見て?
俺はなんて幸せそうなんだろう。
「かず…かず…」
やがて俺の耳の底では、俺の名をうわ言のように呼び続ける翔ちゃんの声だけがこだました。
ふたりの熱で曇ったガラス窓を指の先で拭って顔を近づける。
「なに?」
俺の仕草を問うそんな言葉さえも甘く耳元で囁く。
「紫陽花…」
外は暗い。
それに降りしきる雨。
見えはしないけれど、
「あの道に咲いてるって知らなかった…きれいだった」
俺は、またひとつあなたに教えられた美しいものに想いを馳せる。
あなたといると、ふたりでいると、世界は美しく広がってゆくね、翔ちゃん。
そっと胸に寄り添えば、あなたはその綺麗な指で俺の背中をゆっくりと何度でも撫でてくれる。
翔ちゃん、見て?
ガラスに映る俺たちも、
雨に濡れて幸せそうだよ。
俺は翔ちゃんの胸からほほをはがして伸び上がる。
もう一度あの紫陽花の花の数ほどの、降りしきる雨粒ほどのキスがしたい。
貴方が花びらみたいだという俺の唇に、雨粒みたいに唇を落としてよ。
花に触れてはじけた雨粒は、その甘美な水で花を包む。
幾重にも幾重にも。
美しい6月の夜。
雨はやまない。
八分音符を並べるように、規則正しく降り続けている。
fin
☆…☆…☆…☆…☆
もし、
「同じタイトル」と「同じワンセンテンス」で同時にお話を書いたらどうなるだろう?
お友達の あるふさん とそんな遊びを思いつきました。
言葉を決めて、それぞれがイメージする世界で遊んでいます。
お互い相談もせず、何を書いたかも知らないアンソロジー風。
『 雨は止まない。八分音符を並べるように、規則正しく降り続けている。 』
このワンセンテンスはどの部分に使われているのか、ポエムかな、お話かな・・・
ただ、同時刻にUPして楽しもうという、ただただお互いが楽しい遊びをしました。
あるふさんの 『 甘雨 』 は こちら →
お付き合いくださってありがとうございました (*’▽’)
by あるふ & 涼風
前回のアンソロジー 『 薫風 』 はこちらです →
もし、よろしければ(*´ω`*)
☆…☆…☆…☆…☆
敬愛するあるふさんと約束していた二つ目のアンソロジー。
にのちゃんのお誕生日という素敵な日に叶って、
とても嬉しい すず です。
にのちゃん
お誕生日おめでとう。
圧倒的表現者、二宮和也さん。
これからも嵐をよろしくお願いします。
そして、今年も翔ちゃんの隣で
かわいい笑顔を沢山見せてください。
健康で充実した一年になりますように。
涼風
夜空 ふたりが暮らした。
地震のニュースゎもちろん忘れてはいけません
目の前の現実に・・ホント心痛いです
沈む心を振り絞り最近聞いた笑い話を披露いたします。
PTA会長の失態・・
今日は西洋中学の運動会・・
PTA会長・エゲツ屋リュウジは今、朝礼台の上にいる
「っというわけでぇぇ・・」
厠に100Wの白熱灯・無駄に明るい町内会の人気者・・
コンビニエンスストアーを2店切り盛りする55歳
声を張り上げ運動会開幕の挨拶である。
彼の3人娘達は皆この西洋中学に通った・・
現在末っ子がこの学校の生徒である
「今日の運動会!北洋中魂でがんばりましょう!」
彼はMICを通じてそう叫ぶと朝礼台を元気に降りた
テントの中、来賓席に戻ろうとすると
校長先生が笑っている・・
校庭内の生徒の拍手も何かおどけた調子だ
(おかしいな・・今日そんなにウケル話してねぇぞ)
町内の祭りの睦・総代も勤める彼は楽天的だ・・
「今・・北洋中魂って言いましたよ・・ククク」
校長先生にそう囁かれ動揺するPTA会長
そう・・ここは西洋中学
北洋は娘達が卒業した小学校である・・
「あっイケネ!!」
彼はきびすを返し朝礼台下へと走った
「あぁぁぁ・・ごめんなさぁぁぁぁぁい!!」
台の前で叫ぶPTA会長・・
「西洋中魂で最後までがんばりましょう!!」
生徒も先生達も来賓もPTAの皆さんも・・
ヤレヤレだよと・・言って笑いました。
「リュウジ!!人様にに笑われる様な事はするんじゃねえ!」
数年前に亡くなった彼のオヤジの怒鳴り声が
聞こえて来そうな下町の情景です・・。
↑はい・・そのPTA会長です・・3丁目の総代です
ちなみに学校名は故意にぼくが変えました・・
が・・話の中身は真実です・・(^_^;)
やりますね・・エゲツ君・・(→o←)ゞ
そんなエゲツ君が7月15日歌いますよ!
↑五木ひろしの「夜空」をファンキーにしてみました
(*^▽^*)
ヘ(゚∀゚*)ノヘ(゚∀゚*)ノヘ(゚∀゚*)ノヘ(゚∀゚*)ノ
2018年7月15日(日)
渋谷ラママ 昼の部
「RePRODUCTION」
チャージ 千円+ドリンク600円
再入場可 フロアー全面禁煙
中学生以下親同伴で無料入場
出演
nellsons 10時40分~
「を」 11時10分~
一歌八華 12時10分~
R-87 13時10分~
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
Rプロ10周年くらい記念イベント
「Re PRODUCITION」
過去と現在そして多分この先とのクロスロード!
過去と現在と未来とに全てまとめて火を吹いてやります!
懐かしいを噛み締めて・・
久しぶりだね!を踏み台に
もう一度スタートラインから飛び出し飛翔する!!
そこにあるのは郷愁か・・未来か・・
よ(^○^)ろ(^○^)し(^ー^)く(^○^)ぺこm(_ _)m
夜空 関連ツイート
重なり合うようにすら見える夜空の星が、
実際は、何光年、何十光年も離れているみたいに。
とるの羨ましいです✨
どーやってとってるんですか?
ε٩(๑>▽<)۶з