ブーメランを舐めた人間の末路
ドゥンドゥンドゥンドゥン♪
20時OPENのクラブに、少し遅れて21時17分に入った。
待ち合わせしていた友達の姿はどこにもない。
「あれ?おかしいな・・・」
クラブなんて所初めて来た。
友達の仕事の終わる時間の関係で入場時間がズレるのは仕方ないけれど、先に入ってるって言ってたくせに等の本人はどこにも居ない。
LINEをしても電話をかけてもダメだった。
「は?何で出ないの?」
クラブの中は騒がしいのでついつい心の声が外へ出てしまう。
てか友達が”一人が嫌だから”って理由で今日仕方なく付き添いで来てあげたのに・・・
こんなの予想してなかった
すぐに落ち合えると思ってたのに。
暫くすると未読だったLINEに全て既読が付いた。
【私もう中に居るよ?莉菜どこに居るの?】
良かった。この中のどこかに友達が居るみたい。
私は周りを見渡して、分かりやすい場所に立った。
【今、ドリンク販売してるカウンターの隣に居るよ?】
入場料金を3500円支払った際に、ワンドリンク券を一枚渡されていた。
皆ここでお酒やジュースに引き換えている。
すると友達からすぐにLINEの返事が来た。
【分かった、今そっちに行くからそこで待ってて!】
よし、友達がこっちに来てくれる。
私は安心して取り合えずワンドリンク券を引き換える事にした。
ネオンで光るパネルに飲み物の種類が書かれている。
ジーっと見つめていたらカウンターに居た販売員の黒人さんが話しかけてきた。
「Hi!お姉さん?What’s Youre Name?」
「え!?わ、私?」
日本語喋れるのかなこの人?
いや、日本語で話しかけてきたんだから大丈夫か。
「莉菜!上村!」
「Rina? Lina?」
え?発音かな?まぁ、どっちでも良いんだけど。
取り合えず・・・もう一回
「莉菜!」
「Ah! Rina! OK!」
「分かった?」
「Yeah! i’m Dante」
「ダンテ?って名前なの?」
「Yes! Rinaは何歳?」
何歳?って、そこだけ日本語訳なんだ。
「24!!!!」
「What!? Twenty Four!?」
何かかなり驚かれた。
「そ、そうそう!トゥエンティーフォー!」
「Wow!見えないねー?Teen agerみたい」
「ノーノーノー!アイムアトゥエンティーフォー!」
確かに、入場するときも身分証明証を見せるまで未成年なんじゃないか?と、かなり疑われた。
あぁ、こんなフリフリのお洋服卒業した方が良いのかな・・・。
「オススメあるよ!」
と、黒人さんのダンテは、あるお酒を指差した。
「イエーガーどう?」
「イエーガー?」
何か鹿の絵が書いてあるサーバーの所に連れて来られた。
試験管みたいなグラスを渡される。
「何?」
「ここ!レバー倒して?」
「え!?」
何か強制的にグラスを渡されて、断れずにいたら。
「One Drink Ticket ある?」
「え?これ?」
「Thank You!」
「あ!ちょっと!」
と、ワンドリンク券をまんまと取られた。
何かキツそうなお酒だな。
私ジュース飲みたかったのに・・・。
とにかくその試験管みたいなグラスを抽出口に設置してレバーを倒した。
「ひゃっ!?え、つめたっ!?」
キンッキンに冷えた赤い液体が流れ出してきた。
「Hahaha! Shot!」
「は?ショッ、ショットなの?これ?」
マジかー。
アルコール度数を聞いてみる。
「これアルコール何パーですか?」
「Hahaha!いいから飲む飲む!お姉さん!」
「えっ!?」
「Enjoy!」
エンジョイって・・・。
困っていたら。
「お?イエーガーショットすんの?カッコイイ!」
「へ?」
隣に来た人にいきなり話しかけられてビックリした。
顔を見ると、暗くてよく見えないけれど、顔が整った美少年?みたいな感じの人ががそこに居た。
服装は胸元が空いたシャツにタイトスーツで、カッチリ着こなしているのに、髪型は少し癖っ毛なのかちょっとボサボサしている。
そのバランスの悪さが何だか可愛い。
「わっ、あの・・・初めまして」
わー、さすがクラブ。
話しかけられちゃったどうしよう。
キョドっていたら向こうからまた話しかけてきた。
「名前何て言うの
?」
?」
「莉菜!」
「え?」
聞こえにくかったのか、耳を近付けてきた。
「莉ー菜っ!」
「あ、莉菜ちゃん?」
「そう!あなたは?」
今度は聞こえやすくする為だろうか?
私の耳元に口を近付けてきた。
うわぁー恥ずかしい。近いよお兄さん!
「てち!」
「へ?」
てち?
何それ名前?変なの。
聞き間違えたかもしれないのでもう一度聞いてみる。
「なんて?」
「だーかーらー!」
彼は更に唇を私の耳元に近づけた。
「てち!!」
「・・・てち?」
「そう!!」
あ、やっぱ “てち” なんだ?
変な名前。中国人か韓国人なのかな?
てか・・・
声高くない?身体も細いし本当に少年みたい。
未成年なんじゃないの?
と疑いたくなった。
いや、これ特大ブーメランだけどさ。
でも、ここのイベント会場は成人してないと入れないし・・・。
身分証明証出してるはずだし。
「莉菜ちゃんイエーガー飲まないの?」
「あ、飲み・・・たくない」
「え?買ったんじゃないの?」
「うん・・・無理矢理ススメられて」
「あはは、じゃあ俺も何か買うよ!一緒に乾杯しよっか?」
「う、うん・・・」
そう言って、てちはダンテにお金を払って、緑色の綺麗な液体が入ったショットグラスを貰った。
「ほら莉菜ちゃん!俺もショットだよ!」
「え、わざわざショットにしてくれたの?」
「あははは、もしかして莉菜ちゃんクラブ初心者?」
「え、うん・・・」
てちは笑いながらショットグラスを持った腕を
私の腕にクロスさせた。
腕が当たった衝撃でショットグラスから赤い液体が激しく揺れる。
「てちてち!こぼれるこぼれるこぼれる!」
「あはは!パリピはね?こうやって飲むんだよ?」
こうやって飲む?
この状態でこのグラスを口に運ぶの?
するとてちが先にショットグラスに口を付けた。
私も慌ててイエーガーに口を付ける。
「せーのっ!!」
グビッ!!!
飲んだ瞬間にキンキンに冷やされた液体が喉を通った。
「んっ!!」
その後に強烈なハーブの香りが鼻をツンと突き抜ける。
キンキンに冷えていたけれど、アルコール度数が高いのか、後から喉が焼けるように熱くなった。
「ゴホッゴホッ!ゴホッ!きっつ!」
「あははは、凄いね!イエーガー飲めたじゃん」
絡めていた腕を離すと、てちは私の手からサッとグラスを取り、スマートにカウンターにいるダンテに返却した。
慣れてるなぁ、この人。
「Thank’s! Enjoy Guys!」
ダンテはそう言って、私達にウインクした。
「・・・やば、フラフラしてきた」
一体あのイエーガーというお酒は何度あったんだろう?
身体も急に熱くなり始めた。
てか友達はまだ来ないのだろうか?
てちはまたダンテにお金を渡してドリンクを買う。
今度は雪だるまみたいな変わった形のグラス。
球体が二つ繋がったみたいなグラスだった。
下の方はジンジャエールみたいな色で、上の方はさっきの緑色の液体が入っている。
てちはそれを手にしてニッコリと私に微笑んだ。
ドキン・・・
何か、カッコイイなぁー。
お酒強いし。
「莉菜ちゃん誰かと来てんの?」
「え?うん、友達・・・と、来て…て…」
「おっ、おっ、おっと!」
足元がふらついて転けそうになった。
てちがすかさず私の肩を抱いた。
てちの首筋から香水の良い香りがして余計頭がボーッとする。
左耳にジルコンのピアスが着いていて、キラキラとして綺麗。
てちのキラキラしたピアスに見とれていると。
「んっ!?」
へっ?へっ!?へ!?
「ちょっ!?」
「ふふ・・・」
不意を打って キ ス された。
唇 の 柔 ら か さ に 思わず身を 預 け そうになったけど・・・。
「酔いすぎだよ莉菜ちゃん?しっかり立って?」
「あ、うん・・・ごめんなさい」
てちはケラケラと無邪気に笑う。
そしてドリンクを飲んだ。
「何したの?」
「ん?」
「今、私に・・・何した?」
「さぁー?覚えてない」
出た!この人相当遊び人だな!
私は少しムッとして問い詰める。
「何したの?」
「俺もだいぶ酔ってるんだよねー?」
「え?酔ってんの?酔ってないよね?」
てちはケラケラと笑いながらグラスにある液体をゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干した。
ゴトン・・・
グラスをカウンターに置くと
「じゃー俺行くわ!」
そう言って立ち去ろうとした。
「え!?どこ行くの?」
「んー?」
私はすかさずてちの腕を掴んだ。
腕には大きな腕時計をしている。
男の割りには腕も細い。
いや、何か妙に細すぎないか?
「莉菜ちゃん友達居るんでしょ?」
「いるけど、まだで・・・」
「あはは、俺とそんなに遊びたい?」
「いや、そう言う訳じゃないし」
私はサッと手を退けた。
てちはニッコリとしながら私を見つめる。
「もう行くよ?」
「えっ・・・」
その時だった。
「ねぇ、君何て名前?」
「えっ!?」
別の男に声をかけられた。
髭が濃くて、肌も黒くて、髪の毛は金髪の短髪。
腕には何ヵ所かタトゥーが彫られていた。
私の苦手なタイプの男だった。
「あ、あの・・・」
「俺の名前ヤマト!お前は?」
お前って・・・何こいつマジ偉そう。
しかも相当酔ってるこの人。
私の腰を抱き寄せてきた。
私はてちを見る。
てちはニッコリと微笑みながら腕を組んで私の様子を伺っていた。
「なぁ!お前の名前聞いてんだよ!」
「あ、あのすいません・・・離して下さい」
助けてほしい。
私はその男の腕を掴んで腰から手を離そうとするけれど、力が強くて取れない。
私はてちに助けてとアイコンタクトする。
しかしてちは微笑んだまま腕を組んで様子を眺めているだけだった。
「まぁ、名前なんてどーでもいいや!」
男はそう言って顔を近付けてきた。
やだ!コイツと キ ス とか。
拒否反応で私は大声で叫ぶ。
「てち!!!!」
気付いたらてちを呼んでいた。
するとてちの目が変わった。
ニッコリと微笑みながら、組んでいた両腕を大きく広げた。
私はその男から急いで離れててちの胸に飛び込んだ。
「てち!!」
「莉菜」
後は、殆ど覚えていない。
相当酔ってたのもあるけれど。
ナンパしてきた男を追いやる為だったか?
本望だったのかは分からない。
私達はその場で 濃 厚 な キ ス を し て お 互 い の 匂 い を 嗅 ぎ 合 っ た。
夢中で髪を撫でて、抱 き 合 っ て、身 体 を 触 っ て・・・。
その後ずっとてちと一緒に居た。
ベッタリくっついて離れず、ひたすら緑色の液体をショットして
その後クラブを出た・・・。
後は、本当に覚えていない。
目を覚ましたら ホ テ ル だった。
その時にはてちはどこにも居なくて
仕方なく、私はホテル代を全額払って外へ出た。
プルルルルル
電話が鳴る。
ピッ・・・
「もしもし・・・」
『ちょっとぉ!莉菜ぁ??何で電話に……………………』
友達だった。
怒られると思ったけれど、ヘラヘラと喋りながらすごく謝られた。
何故なら
本来友達と落ち合うはずだったクラブではなく、どうやら私は間違えて違うクラブに入ってしまっていたらしい。
友達は、場所をややこしく伝えてしまったからと言って、何度も何度も私に謝ってきた。
「うん、そんなのどーでもいい・・・私さ・・・もしかしたら、知らない男 と 寝 た か も ・・・」
『ひぇっ!?ほんとにぃ!?』
上村莉菜。
24歳で初のクラブ体験をして
今・・・最悪な朝を迎えている。
「てち・・・」
てちの顔も、もうあんまり思い出せない。
強く記憶に残っているのは、
イエーガーの味と・・・
てちの飲んでいた緑色のお酒だった・・・。